これまでの研究から

デルタ翼上の前縁剥離渦の数値解析

デルタ翼上の前縁剥離渦の数値解析

【概要】
 NASA Ames研究所に滞在していた時期(1981-1983, 1986-1987)に実施し,高い評価を受けた研究.この成果により,多くの研究者に認知されるようになった重要な研究成果の1つ.  最初の成果は,デルタ翼の空力に関する数値解析で,ナヴィエ・ストークス方程式の数値計算による前縁剥離渦など空間内の流れ解析の実用性を拓いた研究である.後半の研究は,この手の翼の失速現象にもつながる前縁剝離渦の2つの崩壊パターンを計算で捉え,そのメカニズムに迫った研究で,”Pioneering Vortex Breakdown Study”と評されたものである.どちらも汎用スーパーコンピュータの初期成果としても評価されている.AIAAからはBest Aerospace Image Award (Gold prize)を授与されている.

【詳細】
 1981年から83年にかけて米国NRC (National Research Council)の研究員としてNASA Ames Research Centerに滞在した.その際の研究で,圧縮性ナヴィエ・ストークス方程式を利用したデルタ翼面上の前縁剥離渦の数値解析を行った.超音速ジェット機など大きな後退角を有する機体の空力特性がCFD(数値シミュレーション)によって評価できることを世界に先駆けて示した成果である.ナヴィエ・ストークス方程式の数値計算によって得られる数値解が物体付近だけでなく,前縁剥離渦など空間内の流れに対しても適用可能であることを示し,その実用性を拓いた (AIAA Paper 83-1908, 84-1550, 85-1563等).  1986年から87年にかけてNRC (National Research Council)のシニア研究員として再度NASA Ames Research Centerに滞在した.今回は航空宇宙技術研究所に所属を残したままの長期滞在である.1986年以降に行ったダブルデルタ翼に関するシミュレーションでは,数値計算によって2つのタイプの渦崩壊が捉えられることを示し,その違いが何に起因しているのかのメカニズムを明らかにした(図1,AIAA Paper 87-1229, International Journal of Numerical Methods in Fluids,1988, AIAA Journal,1989). 研究は他の研究者に引き継がれ現在でも多くの成果を生み出している(AIAA Paper 88-2558, AIAA Paper 89-0341など).  NASAは成果を”NASA Supercomputer Studies Aircraft Control Phenomenon”としてプレス発表(Release No. 88-04),NASA発行のニュースであるAstrogramやUNAS newsでも”Pioneering Vortex Breakdown Study”として大きく取り上げられた.NASA Ames Research CenterがちょうどNumerical SimulatorとしてCRAY-2を導入し,新たなビルディングN−258を建設した時期で,一連の成果は開所式で紹介されるとともに,顔写真入りの大きなパネル(写真1)がその後長期にわたってエキシビションとして玄関ホールに展示された.  以上は,NASA Ames研究所のPaul Kutler, Terry L. Holst, Lewis, Schiff氏らとの共同研究.共著ではないが,Joseph L. Stegerからは,時々のディスカッションなどで多くのことを学ばせてもらった.また,Stanford大学のDavid Yehの博士論文の実質指導も行った (AIAA Paper 87- ).ジェット吹き出しによる剝離渦制御である.ある意味で私の最初の学生と言える. (余談)NRCに申請した研究テーマは衝撃波・境界層干渉問題であったが,アドバイザーのKutlerとの最初の面談で,プラモデルを示され,こんな流れが起きるのだが,そのシミュレーションをやってみないかと言われたことが一連の研究のきっかけとなった.また,2つのタイプの渦崩壊についても,奇妙な渦構造がある様子をディスプレイ上で眺めていたとき,Kutlerがこれはスパイラルかもしれない,よい実験屋がいるので相談してきたらと言って,当時デルタ翼の大迎角流れを実験で可視化していたBlair Maclachlanを紹介してくれた.彼とのディスカッションから2つの渦崩壊を捉えていることが明確になった.ちなみに,Blair Maclachlanとは1990年代半ばに再会する.Palo Altoで開催されたAIAAの夏の会議においてAmesの研究紹介のReview講演を聴いてとても興味を持ったため,感圧塗料(PSP)の研究をはじめようとして次の日に訪問したものである.

Bubble type vortex breakdown
Spiral type vortex breakdown

Simulations of leading-edge separation vortex over a delta wing (side view)

Bubble type vortex breakdown
Spiral type vortex breakdown
NASA Press release 88-04, February 1, 1988

3ページあり
NASA Press release 88-04, February 1, 1988

実用機体まわりの遷音速流の解析

Transonic flows over a practical wing (YXX)

Transonic flows over a practical wing (YXX)

Transonic flows over a practical wing/fuselage combination (YXX)

Transonic flows over a practical wing/fuselage combination (YXX)

【概要】
1984年から1986年にかけて航空宇宙技術研究所在籍中に当時のYXXプロジェクトに関連して実用翼まわり,翼胴結合体まわり,全機まわりの遷音速流れの解析手法を開発し,その利用によって数値シミュレーションから信頼できる設計基礎データが得られることを示した(two AIAA Journal articles 1987).また,翼胴結合部分に生ずる干渉の流れパターンを明らかにした.これらの成果はAIAAよりその年次の空気力学分野のトピックスとして取り上げられている.現東北大学流体科学研究所の大林教授(当時,東京大学大学院生)との共同研究.

朝日新聞1985年12月19日

朝日新聞1985年12月19日

日経新聞 1985 年1月8日

日経新聞 1985 年1月8日

新幹線,リニアモーターカーの先頭車両や車両設計に関する研究

効率的な時間陰解法など流体力学の数値計算法に関する研究

宇宙科学に関わる各種研究

流れの可視化と後処理に関する研究