(3) マルチエージェントモデルを利用した航空交通流の制御と最適化に関する研究

Fig. 1 Simulation of air traffics toward Haneda from other domestic airports.

私たちは流体力学の研究者である.もの(物流),人,車,電車,船,飛行機などもすべて「流れ」と呼ばれることからわかるように,これらも流体力学,そしてその支配方程式の対象として捉えることができる.交通方程式(Traffic Equation)は流体の保存則,衝撃波,そしてエントロピーを理解するのに最適な例題であることから.古くは数値計算法で著名なPeter Laxの論文にもその原理が示されている.一方で,支配方程式が存在しない現象を現象自体に基づいて構築される簡単なモデルで記述し,大域的な現象の本質を議論する方法として,セル・オートマトン(CA)に代表されるマルチエージェントモデル法がある.東京大学の西成教授が唱える「渋滞学」はこのような「流れ」を扱うもので,セル・オートマトン法を利用することで,車の渋滞を解決する方法の提案など多岐にわたる分野で成果が挙がっている.

Fig. 2 Simulation of surface traffics inside an airport (Spot assignments)

話は変わるが,国が運営する京を中心としたスーパーコンピュータ群(HPCI)の利用が拡大している.特に,成果の社会還元が強く叫ばれ,世界最先端のハードウェアの開発に加えて,アプリケーション開発やその産業利用にも重点が置かれている.スーパーコンピュータ富岳の利用の裾野拡大を目指して,2016年に新たな利用分野に挑戦する萌芽的課題研究が公募され,4つのテーマに対して8つの研究チームが採択された.
 私たちは,ここまで述べたてきた(1)航空交通の抱える課題解決,(2)渋滞学研究の拡大,そして(3)将来の社会問題解決に向けたスーパーコンピュータ活用の3点が交差する研究として,航空交通流管理を対象としたシミュレーションソフトウェア開発を進めた.
図1は1日の羽田到着便をシミュレーションした結果で,この道具を利用して5分の範囲で各航空機の空港出発時間を変更することで全体燃料最小,全体遅延時間最小,遅延機数最小を満たす多目的最適解を得ている.図2は東大先端研が担当した空港内のタキシングとスポットアサインのシミュレーションである.これに関してもいくつかの成果が出ている.同プロジェクトは2019年度に終了し,現在は科研費などのサポートでさらなる研究を進めている.